◆ 夕顔A ◆ | |
さて光源氏が五条辺りの女性(夕顔)のところに通いつめているという噂は、六条御息所の耳にも入ります。 これほどお慕い申し上げているのに、身分の低いつまらない女に夢中になるとは‥ 御息所は嫉妬で狂いそうになります。 夕顔は本能で光源氏の胸に飛び込むタイブ。 六条御息所は、理性と体面で光源氏を愛するタイプなのです。 さて、夕顔が住む五条の辺りは庶民の町でした。 家々が隣り合い、近所の物音や話し声が聞こえて来ます。 周りが気になり落ち着かない光源氏は、今は誰も住んでいない知り合いの屋敷に連れ出し、人目を気にせず甘い時を過ごしておりました。 夜になると人気のない屋敷はさすがに気味悪く感じられます。 少しうとうと‥ となさったときでした。 ざわざわと木が揺れ灯りが消え、辺りが真っ暗になりました。 不気味な空気が流れ、慌てて夕顔を抱きかかえたのですが、その夕顔には物の化(おばけ)が乗りかかっているではありませんか。 恐怖におのののいた夕顔は、あっけなく息を引き取ってしまいました。 光源氏の腕の中で冷たくなってゆく夕顔。 叫んでも叫んでも息を吹き返すことはありませんでした。 心安らぐ女性と愛の快楽に溺れた時間は、あまりにも短く終わってしまったのでした。 |