◆ 車争い ◆
さて光源氏の正妻 葵の上は、このところ気分がすぐれません。
ご懐妊のご様子です。

つんととりすましていた葵の上が、苦しそうに横になっておられる姿を見ると、光源氏は側についてお守りしなければと思います。
やっと夫婦らしい感情が芽生えてきました。

そんな折り加茂の祭(葵祭)の御祓の神事のための行列に、今をときめく光源氏も参列されるとあって、都ではひとめ見ようと大騒ぎになっています
葵の上は気が進まなかったのですが、出掛けると悪阻(つわり)の苦しさも紛れるのでは‥と勧められ、行列を見に行くことにいたしました。
大路はすでに大勢の人たちが場所とりをしています。
しかしなんといっても光源氏の正妻の乗る車ですから、威勢のいい付き人たちが他の車を無理やり押し退けてしまいます。
そこに誰にもわからないように、わざと古ぼけた車でやって来ていた六条御息所がおられたのです。

遠くからでもひとめ見たいと願う女心。
しかし世間では若い愛人に逃げられかけている元皇太子妃 というような噂も流れているのに、のこのこ出掛けていっては、また物笑いの種になる‥
でもひとめあの方のお姿を見たい。。

誰にもわからないように、ひっそりと息を殺していた御息所でしたのに、葵の上の付き人たちに車を押し退けられ、壊され、プライドをずたずたにされてしまいました。

行列の光源氏は、そんな六条御息所に気付きもせず、通りすぎてしまいました。

出掛けなければよかった‥‥
悔やんでも悔やみきれない御息所でした。