◆ 藤壷③ ◆

あの一夜以来、光源氏は恋しい想いが爆発してしまい、何も手につきません。
想いのたけを言葉に表し、お手紙をお送りになりますが、そんなことが噂にでもなったら大変なことと、藤壷の宮は当たり障りのないお返事しかなさいません。

藤壷の宮の心の中の光源氏もだんだん大きくなってゆくのですが、今ここで自分までもが熱くなってしまったら、二人は破滅の道を下ってゆくと、冷静なお心がおありなのですが、
若い光源氏には、そんな冷静さなどありません。

さて、藤壷の宮はどうやらご懐妊のご様子です。
どう記憶を辿ってみても、お腹の子は帝の御子ではなく、光源氏のお子に間違いないありません。
藤壷の宮は罪の重さにおののきます。

藤壷の宮ご懐妊の知らせは、光源氏の耳にも届きました。
慌てて藤壷の宮のところへ、真実を確かめに行きます。
しかし宮は冷たく 「帝の御子です」 と、取り合おうとなさいません。
何度お尋ねしても同じ答えで、ピシャリと跳ね返されてしまいます。

宮はこの恐ろしい秘密は絶対に漏らしてはならないと、固く誓っておられます。
帝の御子、と繰り返し自分に言い聞かせておられるのです。

さて、出産も近づき、お里に下がってこられた宮のもとに、やはり気持ちがおさえられない光源氏がこっそり訪れてきます。
しかし宮はもう二度とお逢いにはならないのでした。

予定の12月をすぎても、産まれてくる気配がありません。
そりゃそうです。帝の御子ではないのですから‥
宮中では物の怪のせいかと騒がれ始め、藤壷は皆に事実がばれてしまうのではないかと、青ざめていらっしゃいます。
予定より大幅に遅れて、2月半ばに無事親王様がご誕生になりました。
帝のお喜びようは格別です。
早々にお抱きになり、そして光源氏におっしゃいます。

「この子は実にそなたに似ている。美しいものはこんなにも似るものなのであろうか‥」

藤壷の宮と光源氏は、震えが分からぬように、そっと息を殺すしかありませんでした。