◆ 末摘花 ◆

今は亡き常陸宮の残された姫君が、ひとり寂しくお暮らしで、
心の慰めによく琴をひいておられる‥という噂がどこからともなく流れてきました。

興味をもった光源氏は、琴の音でも聞こえてくるかしら と、さっそくお出掛けになります。
するとどうも頭中将も様子をうかがいに来た様子。

頭中将は、光源氏とはいとこで、正妻葵の上のお兄様です。
年が近く、幼いときから仲良く、そして良きライバルとして育ちました。

頭中将も狙っている姫君ならば、なおさら自分のものにしたい‥
そんな闘争心にかられた光源氏は、あまり姫君のことを調べもせずに、積極的に恋文を送ります。
そしてお通いになるようになりました。

一夜を過ごしてみると、あまりにも張り合いのない姫君に、がっかりさないます。
話しかけても気の聞いた答えが返ってきませんし、恋文のお返事も固いものでした。

そう。この姫君は、宮家として固く躾られていて恋愛に慣れておらず、また柔らかい女性の気質を持ち合わせておられませんでした。

それでも何度か訪れたある日、夜明けに外を見ると雪が積もっていました。
光源氏は姫君呼び寄せ、雪を一緒にご覧になろうとしたとき、姫君のお顔をはっきりと見てしまいます。

あ‥ 

鼻が象のように長く、その上先が垂れ下がっていて紅く色づいています。
座高がいやに高く胴長で、痩せていて気の毒なほど骨ばっています。

なぜこんなにはっきり見てしまったのだろう‥
と後悔するのですが、しみじみと可哀想にお思いになり、末長く後見してゆこうと、お決めになるのでした。