◆ 花散里 ◆

桐壷帝のお妃のお一人に麗景殿女御という方がいらっしゃいました。
光源氏は以前その方の妹君 花散里と、逢瀬を交わしたことがございました。
しかしその深い仲は長くは続かなかったのですが、すっかり忘れてしまうこともなく、時折思い出しておられました。


このところ宮中では、朧月夜との密会がばれた光源氏を追放しようという空気が重くたちこめてます。
そのうえ夕顔・葵の上や桐壷院の死、藤壷宮の出家、六条御息所の伊勢下向など、思うにまかせないことが続いた光源氏は、ふと花散里を思い出し、五月雨の晴れ間に訪ねて行きました。


 橘の香を懐かしみほととぎす 花散里をたずねてぞとふ


長らく訪れなかったことを恨みもせず、優しく穏やかに迎えてくれる花散里に、心を通わせる光源氏でした。